アリ・ゴジ / Ali Ghodsi (Databricks CEO) · 02:17 「我々はすでに AGI を持っている。 問題は AI 能力やない、 組織のコンテキストが AI に届いてないだけや」
ゲストは Ali Ghodsi、 Databricks の共同創業 CEO。 イラン系スウェーデン人、 KTH 王立工科大で分散システムの博士号を取り、 2009 年に UC Berkeley AmpLab に参加 (Michael Jordan が在籍していた当時最も活発な AI ラボ)。 そこで生まれた Apache Spark を商用化して 2013 年に Databricks を起業、 13 年で評価額 1,000 億ドル超のレイクハウス + AI プラットフォームに育てた。 顧客は 20,000 社以上。 進行は Apoorv Agrawal — Stanford GSB 講師で Altimeter Capital のパートナー (Databricks にも投資)。
この回の中心テーゼは、 シリコンバレーの集団錯覚を真っ向から否定する 1 文に集約される —「我々はすでに AGI を持っている」。 Ali は会場で挙手アンケートを取る:「AGI がもう来てると思う人?」 → 10%。「あなたが交流する人々の中に、 最新の AI モデルより賢くない人が多いと思う?」 → ほぼ全員挙手。「じゃあもう一度。 AGI がまだ来てないと思う人?」 → 多数挙手 (笑)。「ほら、 これが集団催眠や。 自分の手で答えたのに、 ゴールポストを動かす」。
2009 年 AmpLab 時代の「AGI とはこういうもの」 という研究者コミュニティの定義は、 現在のフロンティアモデルが余裕で超えている、 と Ali は言う。 当時の関係者にも確認した、 全員「あの定義なら、 もうとっくに達成や」。 だが業界は「strawberry の r の数が数えられない」 みたいな枝葉を持ち出して「だから AGI じゃない」 と言い続ける。 これが「super intelligence」 を目指した数千億ドル規模の GPU / データセンター投資の正当化に使われている、 という指摘や。
着眼点
POC が 95% 失敗する本当の理由は AI ではなく「John or Jane 問題」 (05:03)
MIT Tech Report の「95% の AI POC が失敗している」 という数字は方向性として正しい、 と Ali は認める。 でも原因は AI 能力やない。 どの組織にも 1 人だけ「あれは John (or Jane) に聞け、 何でも知ってる」 と言われる人物がおる。 10 年、 15 年、 30 年いる古参で、 全てのコンテキストを頭の中に持ってる。 その人を失ったら会社が止まる、 そのレベル。
この John or Jane の頭の中身が、 モデルには 1 グラムも渡ってない。 だから AI は文脈を欠いた状態で「ばかな間違い」 を量産する。「AGI が来ても、 数学の難問が解けても、 そのコンテキストを silicon に download せん限り組織では使い物にならん」。 Ali の処方箋: carbon (人間) を silicon (AI) と話させろ。 これが今後 10 年で世界中の組織が取り組むべき再配線作業の本質。
ダイナモから 40 年 — 電気モーター並みの普及遅延 (16:54)
Ali がおすすめする 1990 年の Stanford 教授 Paul David の論文「The Dynamo and the Computer」。 1880 年に電気モーター (ダイナモ) が発明されたのに、 工場の生産性向上として現れるまでに 1920 年まで 40 年かかった。 当初は工場主が蒸気機関を電気モーターに置き換えるだけで、 工場のレイアウトは縦長密集型のまま (蒸気駆動のラインシャフトを電気モーターに繋ぎ直しただけ)。
生産性が爆発したのは、「電気は分散できる」 という性質に気付いて工場を都市から郊外へ移し、 広い平面レイアウトで複数のモーターを独立駆動させるようになってから。 PC も同じ — 90 年代の PC は「電動タイプライター」 として使われ、 紙に印刷してファイルしてアシスタントに渡すという旧来フローのまま、 Solow パラドックス (「コンピューターはどこにでもあるが、 生産性統計には現れない」) を生んだ。 今の AI も同じ段階や、 と Ali は断言。
Databricks 内部の実例: 3 四半期 → 1 四半期 × 7 倍速、 でも AI のおかげではなかった (19:58)
Databricks は Salesforce / Workday / NetSuite 等への connector を作るのに「3 四半期 / 本」 かかっていた。 LLM が速くなった頃 Ali 自身が試したら「2 日で 1 本」 書けた。 チームに「何で 9 ヶ月かかるん?」 と聞いたら、 2 週間後「検討した結果、 1.5 ヶ月だけ短縮できます」。 拍子抜けする回答。
別の社員 (first principles で考えるタイプ) に同じ問題を渡したら、「1 四半期で 7 本作れます」。 何が違ったか — モデルではなくプロセスを first principle で書き直した。 Stanford 出 PM が顧客 1 社 1 社訪問して 60-80 ページの要件定義書を書く工程 (1 四半期) → 1 週間で殴り書きにして AI で爆速に書き換え続ける方式に。 Salesforce 等の検証環境構築は、 苦手だから外注に並列発注。 connector 1 本に 1 人だった担当を 7 人 × 7 本の集団作業に (bus factor を排除)。
「GPT-7 や Opus 6 が出ても、 これは助けてくれへんかった。 必要やったのは human refactoring と process change や」。 これが今、 世界中の組織が直面している問題の縮図、 という。
「ソフトウェアは死んだ」 論への反撃 — Seven Powers の生き残る moat (07:16)
「ソフトウェアは死んだ」 が流行ってるけど、 Ali は即座に切り返す。「全ソフトウェアが死ぬなら、 OpenAI と Anthropic も死ぬはずや、 どっちもソフトウェア会社やんけ。 NVIDIA も、 賢い人達がチップ設計のソフトウェアを書いてるだけや、 死ぬはずや。 でも世界最大の時価総額やん? だからソフトウェアは死なへん」。
ただし、 2 つの大きな変化は本当: 参入障壁が劇的に低下、 そしてスイッチングコストが劇的に低下。 ソフトウェアを書くのが圧倒的に安くなった (ゼロにはならんが)。 UI の慣れも、 エージェント経由で全部喋るようになれば消える (どの Salesforce / CRM を裏で使ってるかユーザーは気にせん)。 でも Hamilton Helmer の 7 Powers が定義する moat — 規模の経済 (AWS)、 ブランド (Ferrari / Rolex)、 信頼・特許、 データ独占、 スイッチングコスト、 プロセスパワー — は引き続き効く。 これらが無い「10 年間革新しなかった企業」 は SaaS apocalypse で消える、 が、 革新ある企業はピボットで生き残る。
応用層への価値移動 — Multicast の二の舞を避けろ (25:08)
Apoorv の問い:「Jensen が言う 5 層スタック (エネルギー / チップ / インフラ / モデル / アプリ) に $100 投資するなら、 どこに置く?」 Ali の答え:「明らかにアプリ層に。 でも俺は投資家やない、 ファイナンシャルアドバイスやない (笑)」。
根拠は Ali 自身の苦い体験。 2000 年代の PhD 時代、 ネットワーキング分野で全世界の最も賢い数学的頭脳が取り組んでいたのは「Multicast 問題」 (1 つのソースから世界中に効率的にブロードキャストする方法、 例: スポーツ中継)。 Ali もスタートアップを立ち上げたが、 その間に光ファイバが大量敷設されて帯域コストが暴落、 multicast 問題自体が消滅。 完全な時間の無駄やった。
当時、 インターネットの「本当に勝者になった weird ideas」 は誰も真剣に取り上げなかった: タクシー業 (Uber)、 本のオンライン販売 (Amazon)、 寝室を貸す (Airbnb)、 短文を投稿 (Twitter)。 2000 年に「これが未来や」 と言ったら気が狂ってると言われたはず。 今、 AI 業界全員が NVIDIA / OpenAI / Anthropic / DeepMind の AGI / super intelligence にトンネル視している。 でも本当に勝つのは Education や Healthcare みたいな「left field」 の応用かもしれん、 と Ali は予言する。 米国 GDP の 17% は医療、 そして「100 万人の患者を見てきた、 あなたの遺伝子構成だとこういうリスクがある」 と言える AI 会社には人類は無限に払う。 教育も同じ、 VC が伝統的に避けてきた領域だが、 親は自分の子の教育に本気で金を払う。
フロンティアモデルは「Amazon 本販売」 のマージンに収束 (33:01)
Moonshot (中国) が火曜日に Kimi 2.6 をリリース — 「もしこれが 1 月にリリースされてたら人類史上最高のモデル」 レベルの性能。 だが今は数ヶ月でフロンティア機が抜く速さで進む。 オープンソースとの差は 3-4 ヶ月 → 1 ヶ月にまで縮まった。
Ali の予測: フロンティアモデル提供は「token factory」 (= AWS のような中央集約型 GPU データセンター) ビジネスになり、 規模の経済ゲームに収束する。 「Amazon.com の本販売事業みたいな gross margin に落ち着く。 提供する会社は数えるほどしか残らん、 そして粗利も営業利益も小さい」。 一方で AI モデル自体は商品化される (open source 圧力 + 規模の経済両方が効く)。 価値は応用層へ shift する、 という従来 IT 史の繰り返し。
学生へのアドバイス: Bezos のように長期 secular bet をかけろ (35:44)
「焦るな、 fear-mongering に振り回されるな」 が Ali の学生へのメッセージ。 Airbnb は 2001 年に立ち上がっていてもおかしくなかった、 でも実際 Brian Chesky がアイデアにたどり着くまで 9 年かかった (ある designer 会議で布団が必要だった、 そこから着想)。 良いアイデアは滅多に出てこない、 人間は本質的に下手や、 と Ali。
手本は Bezos: 投資銀行員時代に「インターネットがどんどん大きくなる」 という secular trend を見抜き、 一番地味で差別化のない「本」 から始めて、 every store に育てた。「Twitter で皆が大声で叫んでる『今すぐ重要』 なもの (= multicast 的なもの) ではなく、 長期で正しいと思える方向に張れ」。
動画の構成
- (00:00) State of the Union — AI 業界の現状認識
- (02:17) 「We already have AGI」 宣言 + 会場挙手実験
- (02:45) 2009 AmpLab 時代の AGI 定義は既に超えている
- (04:17) なぜ 95% の POC が失敗するのか — コンテキスト不足
- (05:49) 「John or Jane」 問題 — 組織の暗黙知が AI に渡ってない
- (07:16) 「ソフトウェアは死んだ」 論への反撃
- (08:54) 2 つの変化 — 参入障壁低下とスイッチングコスト低下
- (10:53) Hamilton Helmer の 7 Powers — 残る moat
- (13:11) Ethan Mollick の jagged frontier 図 / 20,000 顧客の現実
- (16:54) Dynamo to Computer — 1880 年から 1920 年まで 40 年の普及遅延
- (19:58) Databricks 内部例: connector 開発を 3Q → 1Q × 7 倍速にした方法
- (24:21) Hamilton Helmer + Jensen の 5 層スタック投資配分
- (25:16) アプリ層が勝つ — Multicast の二の舞回避
- (26:04) Ali の PhD 時代の失敗 — Multicast スタートアップ
- (28:11) Internet の本当の勝者は Uber / Amazon / Airbnb / Twitter
- (28:42) 応用層の有望候補 — Healthcare (米 GDP 17%) と Education
- (32:15) 価値はスタックの上に移動し続ける (IBM → Microsoft → VMware)
- (33:01) Moonshot Kimi 2.6 — オープンソースが Frontier に追いつく
- (34:33) フロンティアモデル提供は token factory ビジネスに収束
- (34:51) お気に入り AI プロダクト — Cursor (Elon が買収する前まで)
- (35:44) Databricks の 10 年ビジョン — SaaS apocalypse に乗る
- (35:44) 学生へのアドバイス — Bezos のように長期 secular bet
出典
Class #4 | MS&E 435: Economics of the AI Supercycle Stanford University Spring '26 Apoorv Agrawal