Matthias Luebken / マティアス・ルベケン · 03:30 「コーディングエージェントは、 これからのソフトウェアシステムのコア構築ブロックになる、 そして既になりつつある。 私はそれに賭けてる、 多くの人もそれに賭けてる」
Granola の Mehedi と同じセッションシリーズ (AI Engineer Code Summit NYC 2026/05)。 Granola が 「LLM 機能を本番運用する Product Engineer の戦術」 を示したのに対し、 Matthias は 「コーディングエージェントを自社プロダクトに埋め込む建築論」 を 20 分で展開する。 Tavoon は欧州の小規模スタートアップだが、 顧客企業のセールスプロセス自動化エージェントを実装してる、 という具体例が記事の中心。
話の構造は 3 層: (1) Pi agentcore とも呼ばれる、 ミニマルなコーディングエージェントフレームワーク。 OpenCode などより上位のエージェントツールが、 この Pi (agentcore) を基盤として使う。 オープンソース、 TypeScript 製、 「リッパー開ける、 中身を弄れる」 ことが設計目標 (= agentcore、 ミニマルな TypeScript エージェントフレームワーク) の理解、 (2) OpenCode SST 社が開発する OSS のコーディングエージェント。 Pi/agentcore を基盤に構築。 Claude Cowork や Cursor、 Claude Code に対する OSS 代替として注目される。 マルチチャネル、 プラグイン機構、 サブエージェント、 ゲートウェイサポートなどを持つ がそれをどう拡張してるか、 (3) 自社プロダクトに同じ仕組みを埋め込む ベストプラクティス。
MEMEX 編集視点で重要なのは、 これが vibe coding の 「埋め込み層」 を補強する こと。 Karpathy/Boris/Schluntz は 「コーディングエージェントを使う」 視点、 Mehedi (Granola) は 「LLM 機能を本番運用する」 視点、 Matthias (Tavoon) は 「コーディングエージェントを自社プロダクトの中に埋め込む」 視点。 業界の景色を 5 階層目まで広げる位置にある。
着眼点
Ken Thompson の格言と 「コーディングエージェントの単純さ」 (01:50 - 03:00)
Matthias の出発点。 Unix 発明者 Ken Thompson の名句 「Write programs that do one thing and one thing well (1 つのことを上手にやるプログラムを書け)」 を、 コーディングエージェントに適用する。 「これが、 我々にとって有利に働く」 (02:00)。
具体例として Claude Cowork の Excel 連携スキルを引く。 「Cowork が Excel を直接操作してる? 違う。 小さな CLI のセット — Pandas、 OpenPyXL、 LibreOffice の機能 — を組み合わせて、 自社スキルとしてパッケージしてる」 (02:30 - 03:00)。 つまり、 「巨大なエージェント」 ではなく、 「小さな単純なツールを組み合わせて使うエージェント」 が設計の正解、 という主張。
「Make it easy for coding agents」 — 建築パターン (03:30 - 04:40)
Matthias が前夜の Ivan との会話で気づいた建築パターン。 「コーディングエージェントが使いやすいように設計せよ」 (03:30)。 抽象的に聞こえるが、 具体的には: 「複雑にしようとせず、 コーディングエージェントが何を得意とし、 どうしたらアクセスしやすいかを考えて、 自社システムを設計する」 (03:45)。
これは Schluntz の 「葉ノード戦略」 と同じ景色を、 「自社プロダクトの API 設計」 の文脈で見ている。 Schluntz は社内コーディング、 Matthias は顧客企業向けエージェントの実装、 両者とも 「エージェントが扱いやすい単位に切る」 ことを核心に置く。
Pi (agentcore) の構造 — 「ツールをループで動かす」 だけ (05:00 - 06:30)
Pi (= agentcore) のミニマルさが論点。 Matthias の説明: 「エージェントとは何か? LLM がツールをループで動かす、 それだけ。 目的、 コンテキスト情報 (agents.md など)、 ツールコール、 結果、 ループ。 残りはマジック」 (05:30 - 05:55)。
Matthias の助言: 「カーテンを開けて (don't open the curtain)、 中身を弄れ」 (06:00)。 つまり 「LLM をブラックボックスとして扱わず、 内部を直接弄って自分の理解を作れ」 という、 Granola の Mehedi と完全に同じ Product Engineer の姿勢。
具体的な実装パターン: TypeScript の Agent クラス、 イベントシステム、 ツール呼び出しのフック (before tool call、 after tool call)。 「権限ベースアクセス制御、 エンタープライズ機能、 何でもフックに入れられる」 (07:30)。
OpenCode の拡張機構 — UI まで覗き込む (08:30 - 12:20)
Pi (agentcore) を OpenCode が拡張する形を解説。 「OpenCode は通常のエージェントと同じく、 ツールをループで動かす。 でも今度はランタイムとシェル — bash がデフォルト — を持つ」 (08:30)。
Peter (おそらく Peter Steinberger) のエピソードが秀逸: 「彼が OpenCode に音声メッセージを送った。 OpenCode は当時音声を理解しなかった。 でも何をしたか? 異なるツールを組み合わせて、 最終的に FFmpeg をローカルマシンで実行して、 音声を処理した。 外から見ると魔法に見えるが、 内側は単なるツールコール」 (09:14 - 10:00)。
OpenCode の特徴的な拡張: UI インタラクション。 「セッションイベント、 UI インタラクション、 両方とも拡張可能。 ターミナルだけでなく、 ドロップダウン、 選択など、 UI コンポーネントとして拡張機構が機能する」 (11:30 - 12:00)。 そして Web 版への移植も Pi が自動で書いてくれる — 「Pi に頼んだら、 同じコマンド・同じ選択を持つ Web UI が生成された」 (12:20)。
Tavoon の実装事例 — セールス RFP 処理エージェント (15:00 - 19:30)
動画のクライマックス。 Tavoon が顧客企業向けに構築した実例。 「セールスプロセス — 顧客から提案依頼 (RFP) のメールが来る、 という業務」。 アーキテクチャ:
- 受信箱の監視: メールが来ると、 ゲートウェイで顧客別エージェントに振り分ける
- 顧客 1 社につき 1 エージェント: それぞれが
agents.md(汎用ハーネス) +customer.md(顧客固有の特殊事情、 アクセス権、 割引情報等) のコンテキストを持つ - セッション再利用: ケースごとに過去のセッションを参照、 文脈を維持
- ツール (CLI として提供): CRM・ERP との対話用 CLI、 サンドボックス内で実行
- 出力: ユーザーは Email クライアントに留まり、 ドラフトメールが Gmail の下書きとして生成される。 admin UI は不要
決定的な設計判断: 「ユーザーは Email + 下書きに留まる、 ツール切り替えなし」 (18:50)。 「裏ではエージェントが多数働いてるが、 ユーザーには見えない」 (19:30)。 これは Granola の 「最終プロダクトがマジックのように感じられる」 と同じ UX 哲学。 ブラックボックスを覗き込んでから、 ユーザーには魔法を提供する。
サンドボックスとセキュリティ — NVIDIA OpenShell の言及 (17:30 - 18:00)
質疑応答での重要な論点。 「サンドボックスについて、 まだ取り組み始めたばかり。 でも NVIDIA が最近発表した NVIDIA OpenShell 2026 年に NVIDIA が発表したエージェント向けのセキュアシェル / サンドボックス仕様。 OpenCode 周りのエージェントの実行を、 セキュアな境界内で行う仕組み。 業界の標準化候補の 1 つとして注目される ポリシー — エージェントを保護する 1 つの方法。 我々も検討中、 皆さんも調べる価値あり」 (17:50 - 18:00)。
Trigger.dev の Firecracker VM 同時並行スナップショット と並べると、 「エージェントの実行環境を VM レベルで隔離 + 監査」 という業界の収束が見える。 個別のサンドボックス提案 (NVIDIA OpenShell、 Firecracker、 OpenCode のシェル抽象化) がエコシステムとして組み合わさる方向。
関連記事
- Granola: 一発で決めようとするな — 同じ Code Summit、 LLM 機能の本番フィードバックループ
- Schluntz: 本番でバイブコーディングを責任を持ってやる — 葉ノード戦略の理論
- Karpathy: バイブコーディングからエージェント工学へ — Software 3.0 と verifiability
- Boris Cherny: Claude Code を作った男 — 印刷機の比喩
重要な引用
- 「コーディングエージェントは、 これからのソフトウェアシステムのコア構築ブロックになる」 (03:30)
- 「Ken Thompson の 『1 つのことを上手にやるプログラムを書け』 は、 エージェント時代に再来する」 (01:50)
- 「Make it easy for coding agents — エージェントが扱いやすいように自社システムを設計せよ」 (03:30)
- 「エージェントとは LLM がツールをループで動かすだけ。 残りはマジック。 カーテンを開けろ」 (05:30)
- 「OpenCode が音声メッセージを処理できた理由 — FFmpeg をローカルで実行するという発想。 外からは魔法、 内側はツールコール」 (09:30)
- 「顧客 1 社につき 1 エージェント、 agents.md + customer.md でコンテキスト管理」 (15:50)
- 「ユーザーは Email + 下書きに留まる、 ツール切り替えなし。 裏ではエージェントが多数働いてる」 (18:50)
- 「Pi はティンカリング (中身を弄る) のために完璧。 ミニマル、 リッパー開けて、 部品を組み合わせられる」 (19:50)
動画の構成
- (00:00) Pi の紹介、 「fuck around and find out era」 (Mario からの引用)
- (01:50) Ken Thompson の格言と Claude Cowork の Excel スキル例
- (03:30) 「Make it easy for coding agents」 建築パターン
- (05:00) Pi (agentcore) の構造 — Agent クラス、 イベント、 フック
- (06:30) CRM lead qualifier の TypeScript 実例
- (08:30) コーディングエージェント = エージェント + ランタイム + シェル
- (09:14) Peter の音声メッセージ → FFmpeg 自動実行エピソード
- (10:00) OpenCode の拡張機構 — セッションイベント + UI インタラクション
- (11:30) UI コンポーネントの拡張、 ドロップダウン、 選択
- (12:20) Web UI への移植 — Pi に頼めば自動生成
- (12:49) OpenCode のパッケージ構成、 マルチチャネル / サブエージェント
- (15:00) Tavoon の RFP 処理エージェントの実装事例
- (15:50) 顧客 1 社につき 1 エージェント、 agents.md + customer.md
- (17:00) ツールを CLI として提供、 サンドボックス、 ドラフト生成
- (17:30) NVIDIA OpenShell によるサンドボックス検討
- (18:08) 完成された UX — Email + ドラフトに留まる、 admin UI 不要
- (19:30) Key takeaways — コーディングエージェントが核となる時代
- (20:00) 終了
出典
A Piece of Pi — AI Engineer 公式チャンネル (YouTube)
関連リソース:
用語集
- Pi (agentcore)
- ミニマルなコーディングエージェントフレームワーク。 TypeScript 製、 オープンソース。 OpenCode などより上位のエージェントツールが、 この Pi (agentcore) を基盤として使う。 「Agent class、 イベントシステム、 フック (before/after tool call)」 などの基本構造のみを提供。 Matthias の推奨: 「カーテンを開けて中身を弄れ」。
- OpenCode
- SST 社が開発する OSS のコーディングエージェント。 Pi/agentcore を基盤に構築。 Claude Code、 Cursor、 Claude Cowork に対する OSS 代替として注目される。 マルチチャネル ルーティング、 プラグイン機構、 サブエージェント、 ゲートウェイサポート、 UI 拡張など。
- Tavoon
- Matthias Luebken 氏が共同創業の欧州の小規模 AI スタートアップ。 「組織向けエージェント」 を構築。 顧客企業のセールスプロセス自動化など、 B2B エージェントを実装してる。
- NVIDIA OpenShell
- 2026 年に NVIDIA が発表したエージェント向けセキュアシェル / サンドボックス仕様。 OpenCode 周りのエージェントの実行を、 セキュアな境界内で行う仕組み。 業界の標準化候補の 1 つ。
- agents.md / customer.md
- エージェントのコンテキスト管理に使うマークダウンファイル。 agents.md は汎用ハーネス (役割、 動作原則)、 customer.md は顧客固有の特殊事情 (アクセス権、 割引、 ビジネスロジック等)。 Tavoon のセールスエージェント実装で採用。